好きなことを

 約一年前の土曜日、私は次の日のサッカー観戦を楽しみに衛星放送のダイジェスト番組を見ていました。明日はホーム最終戦。クラブの一年の成績は確かに良くはなかったですが、最後くらいは楽しんで見たい。何より何年も在籍した選手の引退試合になるであろうことも確定していたのです。
 ですが、その楽しみは一瞬で奪われる事になります。なんてことはありません。単に家族の帰りが少し(「衛星放送のサッカーダイジェスト番組の時間だから夜九時」)遅くなっただけです。しかし、母はしきりに「遅い!早く帰って来ない!」を連呼しました。
 私は嘔吐が止まりませんでした。自分もそう言われているんだ、と考えると気持ち悪くて仕方がありませんでした。便器の中の吐瀉物を見ながら私はひたすら泣きました。
 結果的に次の日は観戦には出かけませんでした。ひたすら吐いたため体調も悪く、何より私の居ない時に悪態を付いている母の姿を容易に想像出来たのですから。
 それから私は10分早く出社する事になりました。早く帰るためには早く仕事に取りかからなければなりません。
 ですが、この行動はますます私をスタジアムから足を遠ざける結果になりました。10分早く起きる、ただそれだけの事で体の調子はみるみる悪くなり、仕事の能率も下がり休日は寝てばかりになったのです。
 今日、限界を感じた私は明日からは10分遅く起きる事にしました。だけどそれは同時にもう試合には行けない事を意味します。
 もう私は悲しみしか感じません。努力の結果がこんなに惨めに裏切られるだなんて(裏切ったのは私ですが)。本当に一年が無駄になってしまいました。